ジンシャリ Vol.47
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【表紙の1枚】 山もみじ「武蔵ヶ丘」 (A-073)
「盤根」と呼ばれる根張りが本作の見どころ。
11月下旬頃、錦秋に染まった山あいの散策路を思わせる姿を楽しめる。
推定樹齢150年
https://www.bonsai-art-museum.jp/ja/collection/a-073/
展示の裏側
五葉松「日暮し」-名木に表裏無し
令和5年(2023)11月23日(木祝)から29日(水)まで、五葉松 銘「日暮し」を展示します。本樹は当館を代表する盆栽であり、盆栽界の至宝というべき貴重な作品であるため、五葉松の葉が一番美しい秋に一週間限定で公開しています。
盆栽界には「名木に表裏無し」という名言があります。一般的に盆栽は、鑑賞に適した正面が決まっていますが、「日暮し」は表と裏のどちらから見ても美しい姿をしているため、この名言が生まれたとされています。推定樹齢は450年、左右の幹が絶妙のバランスを呈した「双幹」の傑作とされる本樹。なぜ、これほどまでに完成された姿をしているのでしょうか。
いわゆる「山採り」の五葉松である本樹が、最初の所有者である愛媛県の愛好家のもとで盆栽として育成されはじめたのは、昭和8年(1933)頃とみられています。以来、90年の間に、「日暮し」は当館を含め、12人もの所蔵者に受け継がれてきました。そして、所蔵者や盆栽の管理を任された盆栽園が変わるなかで、本樹の秘められた可能性を求めた「改作」が幾度も行われ、4回も表裏が入れ替わりました。
2本の幹のうち、背の高い「親幹」を右側に配するのは、盆栽界にはじめて登場した昭和初年の姿と同じです。しかし、「親幹」を左側に配する逆向きを正面とした時代が、過去に2回もあったため、結果として「日暮し」はどちらから見ても美しい姿に仕立てられることになったのです。
この木を愛した歴代の人々によって、一層洗練された姿へと昇華し続けてきた「日暮し」。今年の姿もぜひご堪能ください。
職人のしごと
針金による躾(しつけ)
暑い夏が終わると、職人の仕事が増えていきます。本号では、針金を巻き、枝や幹を操作して盆栽の形を作る「針金掛け」についてご紹介します。
現在のような針金を用いた整姿は、明治中期に始まったとされています。盆栽の普及に伴い、短期間で木の品格を上げることができる方法として、盆栽業界に広まり、改良されて様々な掛け方が誕生しました。
針金の種類は、銅線とアルミ線が一般的ですが、当初は銅線しか存在しませんでした。銅線は焼きなますと柔らかくなるため、自在に曲げて枝に巻き付けることができます。一方で、独特のサビが出るため、銅線に紙を巻くことで、幹枝を汚さず、傷つけないような工夫がされていました。
針金掛けは、一見、木をいじめているように見られてしまいますが、自然の環境を鉢の上で再現するための「躾け(しつけ)」であるとも職人の間では言われています。雨や強風、雪に押し潰されながらも耐え忍ぶ、厳しい自然の姿を自在に表現できる事から、重要な職人技の一つとなりました。ただし、エゾ松など針金掛けを嫌う樹種もあり、当館でも掛ける木と掛けない木を見極めながら作業しています。
針金掛けの目的には以下のようなものがあります。
①木の個性を際立たせるための躾け、②欠点を補うための矯正、③思い通りの木作りのスタイリング、④表面の枝先を下げ、内側にある弱い枝の育成を助ける「伏せこみ」。
目的に応じて使い分けるため、針金掛けには豊富な経験と知識が必要です。盆栽の見事に整えられた枝ぶりは、盆栽職人ならではの「技」によって生み出されているのです。
サポーター通信
生徒さんとともに成長-アカデミー事業
【大宮盆栽美術館では、ボランティアによる「ミュージアム・サポーター」を結成し、当館事業を共に担っていただいています。今回のサポーター通信では、サポーターの5つの活動のうち、アカデミー事業についてご紹介いただきます。】
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アカデミー事業では、「さいたま国際盆栽アカデミー(以下、盆栽アカデミー)」の中級コース修了生がサポーターとして活躍しています。主な活動は、①盆栽アカデミーの実技補助、②ゴールデンウィークの作品展示の2つです。
当館のサポーターは、盆栽アカデミーの生徒さんより少しだけ先輩ですが、まだまだ盆栽迷路をばく進中です。盆栽アカデミーの生徒さんと一緒に悩み、一緒に成長させてもらっています。
また、ゴールデンウィークには、盆栽アカデミーで制作した盆栽を「修了生作品展」としてロビーに展示しました。この展示を通して「盆栽は鑑賞するために作るもの」という原点を改めて認識しました。作品展は、今後の盆栽アカデミー受講生の大きな目標の一つになると思います。展示を見てくださったお客様から盆栽アカデミーの応募方法はどうすれば良いか、とお声がけいただき、盆栽人口を増やす一助になったのかなと嬉しかったです。
(サポーター 佐藤悦子)