Jinshari

ジンシャリ Vol.50

ジンシャリ Vol.50

【表紙の1枚】 歌川重宣「新板鉢植つくし」(E-152)/弘化4年~嘉永5年(1847~1852)

浮世絵版画の様式の一つである「おもちゃ絵」の中には、本図の盆栽尽くしのように、ひとつのテーマのモノを網羅的に描き集めた「もの尽くし絵」と呼ばれる一群がある。本作は植物の種類のみならず、染付鉢の種類や色彩などが細かく描き分けられた一点である。
https://www.bonsai-art-museum.jp/ja/collection/e-152/

展示の裏側

江戸のビジュアル植物図鑑を解読中―特別展の資料調査

「うーん」とうなりながら虫メガネをのぞき込み、「へえー」とつぶやきながらメモを取る時間が増えています。

 虫メガネの向こうには、それぞれ異なる文様を藍と白で染め抜いた染付鉢がずらりと並んでいます。そこには、満開の花を咲かせたボタンにサクラ、ツバキ、シャクヤク、フクジュソウ、フヨウにキク、ツツジにサツキ、ユリ、アジサイ、フジにアサガオ、オミナエシ、サクラソウ。花に限らずマツにタケ、セキショウ、オモトにシノブやサボテン・・・まるで早口ことばのカタカナでこの誌面が埋まってしまうほどのさまざまな花や木々が植えられています。

 丁寧に樹種や品種、花の特徴を描き分けたこれらの鉢植えの姿は、たった一枚の浮世絵版画に描き集められているものです。およそB4判ほどの和紙に、大小合わせて実に70点ほどの鉢植えが見事な色彩とともに表されています。

 江戸時代から明治時代に製作された浮世絵版画には、たとえばこの絵のように「鉢植え」という一つのテーマを設けて多様な植物を網羅的に描き集めた「もの尽くし絵」というジャンルがあります。テーマが鉢植えであれば「鉢植え尽くし」、大工道具であれば「大工道具尽くし」、動物であれば「獣尽くし」や「鳥尽くし」として、モノを見て、その特徴をわかりやすく、そして楽しく学ぶ子ども向けのビジュアル図鑑のようです。その働きもあってか、明治時代の学校では、もの尽くしを模した教材が使われるようになったということもあり、現代の私たちにとっても、植物を知る格好の図鑑としての働きは健在です。

 本年秋に予定する特別展では、このような「盆栽尽くし」の浮世絵版画をテーマに紹介します。ただし、みなさんにお披露目するにはすべての植物を読み解かねば・・・まだまだうなり声をあげる日々は続きそうです。

特別展「ウキヨエ植物大図鑑~『盆栽づくし』を楽しみつくす!」(仮)
会期 令和6年9月21日(土)~10月30日(水)
休館日及び閉室日 毎週木曜、10月11日(金)
会場 企画展示室

虫メガネをのぞき込み、花の種類を解読中

虫メガネをのぞき込み、花の種類を解読中

職人のしごと

しばしの間、おやすみ青龍 ―五葉松「青龍」の植え替え

体躯をくねらせ、天空を舞う龍の姿を思わせることから「青龍」と名付けられた五葉松。当館の盆栽のなかでも一二を争う人気者です。4月初旬、10年ぶりに植え替えを行いました。処置後一定期間は培養所での管理となるため、しばしの間お別れです。今号では、五葉松「青龍」(A-060)の植え替え作業をレポートします。

 推定樹齢350年の老木の植え替えに当たり、幹肌を傷つけないこと、ジンとシャリを折らないこと、必要以上に根を傷つけないことに加え、「青龍」ならではの特異な樹形から来る課題がありました。本作は、水平方向に鉢から大きく張り出しながらも、絶妙なバランスを保ちながら自立しているため、些細な影響でも倒木の恐れがあります。これを防ぐためには、木をしっかり鉢に固定する必要があります。実は盆栽の植え替えでは、木の固定に非常に気を遣っています。

 慎重に周囲の土を突き崩し、鉢から木を取り出し、ついにその根が姿を現しました。10年分の生長で窮屈に張り巡らされていましたが、元気な様子でした。「青龍」のバランスを保つため、自立の基礎となる中心の根はできるだけ温存し、太めの竹串を張り出した幹とは反対側の絡み合った根の間に突き刺し、竹串と鉢底を通した針金で樹体を固定しました。「青龍」の稀有な樹形を維持するため、目に見えない鉢のなかで様々な配慮がなされているのです。

 また、今回は鉢替えも行いました。これまで「青龍」が植えられていたのは、盆栽業界では「古渡り」と呼ばれる中国製の貴重な泥物鉢でしたが、現在の本樹には奥行きが狭すぎたため、新たに愛知県常滑産の鉢を用意しました。新しい鉢に収まった「青龍」に新たな根が張り、再び盆栽庭園にお目見えする日をお楽しみに!

根を固定するための竹串を挿しています。

根を固定するための竹串を挿しています。

「がんばったね、青龍」~植え替え後は、たっぷり水を与えます。

「がんばったね、青龍」~植え替え後は、たっぷり水を与えます。

【関連ページ】五葉松 銘「青龍」A-060

サポーター通信

「聞いて、知って、体験する! 」―ワークショップのサポート

大宮盆栽美術館では、ボランティアによる「ミュージアム・サポーター」を結成し、当館事業を共に担っていただいています。今回のサポーター通信では、サポーターの5つの活動のうち、ワークショップのサポート活動についてご紹介いただきます。
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 大宮盆栽美術館では、毎月第3日曜日、午前と午後の計2回、盆栽作りのワークショップを実施しています。午前は子ども向け、午後は大人向けのプログラムです。また、夏休み期間には、小中学生を対象とした「夏休みワークショップ」も実施しています。

 なんだか難しそうと抵抗感をもつ方がいらっしゃるかもしれませんが、そんな事はありません。安心して下さい、意外と夢中になり、楽しいですよ!ワークショップは参加者が主体性をもって参加できるイベントです。一番の魅力は、知識を得られるだけではなく、実際に触れて体験し、参加者同士の意見や質問にも耳を傾けることができるという点でしょう。

 盆栽作りのワークショップでは、素材とする樹種について学び、それを様々な盆器へ植え替えて完成させる体験ができます。我々サポーターは、講師による指導の補助をさせていただいており、皆さんと共に楽しく学びながら活動しています。

 思い出せば、私が初めて自身の盆栽を手にしたのも、ワークショップへの参加がきっかけでした。少し大袈裟ですが、盆栽を1つ手にしたことで、今や自身の世界は大きく変わったようです。盆栽は生きています。よって、毎日の世話が大切で、盆栽を育てることは、日本の伝統文化の1つを守るものと思っています。皆さんも「価値観」を突き動かす「盆栽観」を養ってみてはいかがでしょう?
(ミュージアム・サポーター 白井和之)

ハウチワカエデの盆栽作り。真剣に講師の話を聞く子どもたち。こんな風景を見守ることができるのも醍醐味です♪

ハウチワカエデの盆栽作り。真剣に講師の話を聞く子どもたち。こんな風景を見守ることができるのも醍醐味です♪

【関連ページ】子ども向けワークショップ―はじめての盆栽づくり

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